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3DHIP

股関節形成不全に対する新たな手術法
「カスタムメイドチタンインプラントを用いた棚形成術(3DHIP)」

股関節形成不全とは?

股関節形成不全(Hip dysplasia; HD)は、
発育性の関節の形成異常によって股関節に不安定(緩み)を起こし、
その結果として変形性関節症(Osteoarthritis; OA)へと移行していく関節疾患です。

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成長期に認められる臨床徴候は、

​股関節の緩みに起因する。

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変形性関節症が進行すると、

寛骨臼周辺に骨棘が形成され、

大腿骨頭に骨増生が生じて大腿骨頭が太くなる。

股関節形成不全の病態の進行
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股関節形成不全の症例では、生まれたときには正常の股関節であるが、発育中に股関節の緩みによる不安定を呈し、

​やがて変形性関節症へと移行していくことが特徴。

股関節形成不全の症状

症状は2パターンあります。
 

①4-12ヶ月齢のときに股関節の緩みにより症状が認められます。

 症状は、片方もしくは両側性の後肢跛行、腰振り歩行やウサギ跳び歩行、休息後の起立困難、走行やジャンプを嫌いすぐに座る、などが挙げられます。
 

②変形性関節症が進行したときに股関節痛、跛行、関節可動域の制限が生じます。

 

大切なのは①の段階で股関節形成不全であることを診断し、股関節を温存させることです。

どんな子に多い?

動物整形外科財団(OFA)のデータベースより、以下の犬種に股関節形成不全の発生が多く見られます。
 

・小型犬:シーズー・ポメラニアン
・中型犬:ブルドッグ、パグ、フレンチ・ブルドッグ、ウェルシュ・コーギー、ビーグル
・大型犬:ジャーマンシェパード、ゴールデン・レトリーバー、バーニーズ・マウンテン・ドッグ、ラブラドール・レトリーバー
・超大型犬:セントバーナード、ニューファンドランド、ロットワイラー、マスチフ、

今までの股関節形成不全の治療について

・内科的管理

非ステロイド性抗炎症薬やサプリメントの投与、体重管理、運動制限、リハビリテーションなどを行います。

・外科治療

現在臨床的に実施されている手術は以下の通りとなります。

発育期(5~12ヶ月齢まで)
 二点もしくは三点骨盤骨切り術(Double pelvic osteotomy; DPO, Triple pelvic osteotomy; TPO) 
 腸骨・恥骨 (・坐骨) の2 ( 3) ヶ所の骨切り術を実施して、寛骨臼を背側に回転させた後に専用の骨プレートを使用して固定を行います。寛骨臼が大腿骨頭を覆うようになります。
 この術式は、自分の股関節を温存できることが最大のメリットです。ただし、幼少期に数か所の骨盤を切るという大きな侵襲(痛み)があり、合併症もDPOで0–21%、TPOで7–70%と比較的高い発生率があります。主な合併症は固定の破綻、神経損傷、便秘などです。

 

重度の変形性関節症が発生した場合
 股関節全置換術(Total hop replacement; THR) 
 当院では、HDによる跛行・疼痛・後肢機能やQOLの低下がみられた場合にはTHRを提案しています。予後は良好からきわめて良好であり、合併症も3.8-11%と言われています。ただ、合併症は重篤なものが多く、手術としても難易度が高いものとなります。また、インプラントがかなり高価です。
※現在、当院ではTHRは実施していません。信頼・実績のある動物病院への紹介を行っております。

 

股関節脱臼もしくは重度の変形性関節症に対する救済手術
大腿骨頭骨頸切除術(femoral head and neck osteotomy FHO)
 関節の一部である骨頭および骨頸を除去することにより、寛骨臼との接触をなくし疼痛の原因を除外する方法です。手術の目的は疼痛緩和であるため、ある程度の機能回復までは時間を要します。リハビリテーションが必須となります。

 

上記の治療を踏まえると、股関節形成不全の最終段階(重度の変形関節症)になる前に、低侵襲(痛みの少ない)の手術で済み、合併症リスクの低い効果的な手術法が、より股関節形成不全をもつ動物にとって最適であると考えました。
そこで着目したのがカスタムメイドチタンインプラントによる棚形成術「3DHIP」でした。

新しい治療法「棚形成術」とは?

人医療で一般的に実施されている手術法です。臼蓋への自家骨移植によって、寛骨臼関節面の荷重面積を増やすことを目的として行われています。

棚形成術のメリットは、合併症が少なく、回復が早く、骨盤骨切り術よりも容易であることです。人の場合は、自身の股関節をなるべく温存するための実施される手術で、20年の生存率は37–68%と短いものと言われています。しかしその年月は、4足歩行の犬にとって寿命を超えていくものと考えられます。

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ちなみに今までの獣医療では、1990年代に棚形成術に関するいくつかの報告がありますが、どれも一般的な臨床応用には至りませんでした。

※1 P. Chironら (2007)  Shelf Arthroplasty by Minimal Invasive Surgery: Technique and Results of 76 Cases, HIP Internationalより転載

3DHIPとは?

ユトレヒト大学のBjörn P. Meijらが開発し、2019年より臨床応用した新しい手術法です。近年になって3Dプリンターによる金属造形技術が進んだことにより、罹患している動物の股関節にフィットするインプラントを作成することができるようになりました。3DHIPは、骨切りはすることはなく、股関節に「被せ物」をするようにインプラントを配置し、4本のスクリューで固定をします。

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左図:股関節が緩いと歩行相で股関節が亜脱臼します
右図:3DHIP手術後はインプラントにより股関節の亜脱臼を防ぎます。

3DHIPを実施するまでの簡単な流れ

①診察を行う
 整形外科学的検査およびX線検査を実施します。
 必要に応じて鎮静剤を使用して検査を行います。

②全身麻酔下にてCT検査を実施

③画像データを海外の業者に送り、インプラント作成を依頼(約1ヶ月間)

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CT検査画像を送るとこのようなインプラントの設計図が返ってくるので、確認して依頼をします。

④3DHIPを実施

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手術前のX線検査画像

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3DHIP手術後の

X線検査画像

手術翌日の退院前の歩様になります。

少しふらつきはありますが、看護師さんを引っ張るくらい歩けます。

3DHIPの適応

・年齢が8ヶ月齢〜2歳齢であること
・症状があること(疼痛、跛行、腰振り歩行、ウサギ跳び歩行など)
・オルトラニ試験が陽性
・OAスコアが0–1であること
・Federation Cynologique Internationale gradeがB–D

3DHIPのメリット・デメリット

 3DHIPの最大のメリットは、低侵襲であることから①早期の回復が見込めること②両側同時に実施ができ、翌日に退院できることです。

当院では腹腔鏡による避妊去勢手術と同時に実施することも可能です。また、重篤な合併症は9.8%と報告されています。
 一方で
デメリットはCT検査が必要であること、手術までの待機期間が約1ヶ月間あることです。また2019年に臨床応用した手術法なので生涯かけた長期予後が観察できていません。

3DHIPにかける想い

 言葉が話せない愛犬に対してできるのは、手術の侵襲(苦痛)をどれだけ減らして、より確実な手術を選択し、より快適な生活を提供することです。様々な術式を経験し、私は3DHIPに辿り着きました。世界的にはまだまだマイナーな手術法ですが、最新の技術が組み込まれており、4足歩行の犬では生涯かけて股関節を温存できるかもしれないという希望を持っています。股関節形成不全で悩まれている飼い主様、一度当院で診させていただけると幸いです。


当院整形外科担当の伏見は、2024年11月にオランダのユトレヒトにて「3DHIP」の実習に参加し、また実施している動物病院での研修も行いました。

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Björn P. Mei先生と記念撮影

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手術研修とEdgar先生との記念撮影

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